誰も知らない世界のことわざ
行政、地域の団体などが進める、さまざまな街の取り組みやプロジェクト。いったいどんな内容なのかご存じですか? 今回、新旧交えて五つの取り組みを取材しました。いずれも地元・滋賀に元気を運んでくれるものばかりです。
- 「大津市大河ドラマ『光る君へ』活用推進協議会」
- 大河ドラマゆかりの地、大津市を全国へアピール
- JR「石山」駅に設置された看板が華やか。イラストは、大津市出身の人気漫画家・唐々煙(からからけむり)さんの描き下ろし
世界最古の長編小説とされる「源氏物語」。2024年のNHK大河ドラマが、その作者・紫式部を主人公とした「光る君へ」だと発表されたのは昨年5月のこと。
大津市産業観光部観光振興課の門坂勇気さんは、思いがけない大ニュースだったと当時を振り返ります。
「大津市は紫式部や源氏物語、平安時代にゆかりの深い街なんです。紫式部は石山寺に滞在し、琵琶湖に映る満月を眺めて源氏物語の着想を得たといわれています。それ以外にも、比叡山延暦寺や逢坂の関が源氏物語のストーリーに関係します」
地域の活性化を図るまたとないチャンスを逃すわけにはいかないと、市をPRする準備が進み、昨年10月に官民連携で「大津市大河ドラマ『光る君へ』活用推進協議会」が設立されました。
協議会は、誘客促進、拠点整備、周遊促進、物産振興と多角的に計画を進める4部会で進行。すでに市内各所に設置されている、のぼりやタペストリーを目にしたことがある人も少なくないのでは。さらに、特設ホームページの公開が予定されているほか、来年1月からのドラマ放送に合わせて、石山寺境内にある「明王院」で、ドラマの世界観に浸れる特別な展示も実施されるそう。
「〝源氏物語誕生の地〟ということを広く知ってもらい、観光振興とともに大津が盛り上がっていくことを目指したい」(門坂さん)
- 大津市庁舎の正面にかかる懸垂幕が目を引きます
- 取材時、大津市役所で開かれていた会議の様子
- 「草津駅前賑わい創出プロジェクト」
- 「草津まちイルミ」の10周年を機に、オブジェを新調
- 昨年のオブジェ展示。お菓子の入ったブーツは草津駅西口商店街の「近商物産」が50年以上前に生産し、全国に広まったとされることから「クリスマスブーツ発祥の地」と記されています ※諸説あり
クリスマスの時期に行われるイルミネーション。例年、JR「草津」駅周辺を中心に実施されるイベント「草津まちイルミ」を心待ちにしている人も多いはず。
こちらを主催するのは、「草津市中心市街地活性化協議会」。地域団体、企業、市民、行政の協働の場として、2013年に設立されました。
「協議会では〝うるおいと賑(にぎ)わいのあるまちづくり〟を目指し、さまざまな取り組みを行っています。イルミネーションはその中の一つ、『草津駅前賑わい創出プロジェクト』の事業です」と、プロジェクトリーダーの山田正人さん。
エリア全体で合計3万8000球以上の電球を使用する規模ながら、民間の協賛金をメインとした〝地域の絆〟が感じられる行事として定着していることも自慢とか。
10周年を迎える今年、スタート時から展示してきた高さ約3・5mの巨大クリスマスブーツを新調する点も話題です。
「アニバーサリーとともに、次の10年に向けてとの思いもあります。これまでのブーツは『みらいKIDSにぎわい交流事業』でのつながりのある福島県・伊達市へ贈り、装いも新たに飾っていただくことになっています」(山田さん)
※今年の「草津まちイルミ」は、2023年11月2日(木)~2024年2月14日(水)に開催予定。クリスマスイルミネーションは2023年12月25日(月)まで
- 草津駅東口デッキに展示された「ペットボトルツリー」は、地元の子どもたちが協力
- 山田正人さん(左)と、協議会事務局の辻信一さん。手にしているのは、昨年の「草津まちイルミ」のチラシ
- 「栗東きょうどう夢の森プロジェクト」
- 地域の力で価値を高めた、〝健全な森〟を次世代へ
- (左から)栗東市商工会の北井達也さん、プロジェクトの委員長・吉川彰浩さん、同委員の澤幸司さん。吉川さんが手に持つ額は、金勝の間伐材を使用してつくられたもの
京都・大阪へのアクセスの良さから人口が増加、都市化が進む栗東市。
「一方で、市の面積の約43%を森林が占めるなど、金勝(こんぜ)地域を中心に豊かな自然環境を有します。ただ昨今は林業が振るわず、整備されていない森林が問題視されていました」と栗東市商工会の北井達也さん。
こうした地域の特性と〝低炭素社会の構築〟が求められる時代背景を踏まえて展開しているのが、「栗東きょうどう夢の森プロジェクト」です。地元の森林所有者で構成される金勝生産森林組合と手を結び、2009年からスタートしました。
地元企業から協賛を募り、その資金で金勝の森林を整備。協賛者にはCO₂吸収協力証を発行するというものです。
同組合の組合長で、プロジェクトを進める澤幸司さんによると、放置した森林の木は根が張らず、土砂崩れなどの原因になるとか。「手入れの行き届いた〝健全な森〟はしっかりと水を蓄え、琵琶湖の水源にもなります。ただ、きちんと森林を手入れするためには林業がビジネスとして成立することも重要です」と澤さん。
これを具体化するため、2011年には滋賀県内でいち早く「SGEC森林認証」を取得。その認証材は、東京2020オリンピック競技大会のスタジアム建設にも使われました。価値を高めて整備を進める―。森林保全の新しい形が注目されています。
- 協賛企業は専門家の指導のもと、森林整備に参加できる機会も
- 現地に設置された、プロジェクトへの協賛事業所名が入った看板
- 「ルシオール・キッズ・クラブ」
- ホタルが自生する川を目指し、守山市の子どもたちが観察
- あまが池親水緑地を観察する子どもたち。「普段おとなしい子どもたちも、夢中で取り組む姿が見られます」と石田さん
「ルシオール・キッズ・クラブ」が活動するのは、JR「守山」駅の近くにある、あまが池親水緑地。
「ルシオールとはフランス語でホタルのこと。地元の小学生の親子を中心としたメンバー約40人で月1回集まり、ホタルについて学んでいます」と、まちづくり団体「みらいもりやま21」の石田奈美さん。子どもの川遊び指導の専門家である「特定非営利活動法人碧いびわ湖」の根木山恒平さんとともに、同クラブの運営に携わっています。
「守山市は古くからゲンジボタルの群生地として知られていましたが、昭和の初めごろの乱獲や環境汚染で、一時は絶滅が危惧されました」(根木山さん)
その後、研究者による人工孵化(ふか)の成功、保護活動といった多くの人の努力によって、〝ホタルのまち〟として復活を遂げたのだとか。
「本音としては、ホタルを人工飼育して放流するのではなく、ホタルが自生するような川をつくりたいんです」と、根木山さん。それには科学的な分析が必要だと、子どもたちを中心に産卵調査や幼虫の上陸の観察、成虫となったホタルの飛翔観察などを行ってきました。
実は石田さんのお子さんもメンバーの一人。「土を触るのも、昆虫を見るのも苦手な娘が、今はすっかり川の魅力に取りつかれています。活動を続けるうちに、みんな自分たちの川だとの意識が高まっているようです」
- 夏休みには、一般の参加者を募っての川遊びの体験会実施も
- (左から)根木山さんと石田さん。背後に見えるのがあまが池親水緑地
- 「オレンジガーデニングプロジェクト」
- 野洲市の街を認知症啓発カラー・オレンジ色の花でいっぱいに
- 野洲市内各所のイベントで花の苗を配布。「花が好きだから」と、わざわざ受け取りに立ち寄ってくれた人もいたとか
「オレンジガーデニングプロジェクト」とは、全国で広がっている認知症啓発の活動の一つ。シンボルカラーのオレンジ色の花を育て、世界アルツハイマー月間である9月には街のあちこちをオレンジ色の花でいっぱいにし、「〝認知症になっても希望をもって自分らしく暮らし続けられる社会〟について考え、話しあうきっかけにしよう」というものです。
野洲市健康福祉部高齢福祉課の西村友美さんがこの活動を始めたのは昨年のこと。
「毎年、『世界アルツハイマー月間』にティッシュペーパーを配ったりしていましたが、近年は手渡しが難しくなって。そんなとき、お花をそれぞれに育ててもらってはどうかと思ったんです」
6月、オレンジの花を咲かせる花の苗を野洲市内の各所で配布。その花を育てているところの写真を送ってもらい、9月には写真展を開催する予定とか。
西村さんは「2025年には、65歳以上の方のうち、約5人に1人は認知症になるといわれています。どなたでもなる可能性がある病気なので、抱え込んでしまわずに相談につなげたいですね」と話します。
キバナコスモスや、マリーゴールドといったオレンジ色の花を育ててまた翌年へ。ゆっくりと楽しく続けられる、認知症啓発活動の種まきが、野洲市で行われています。
- 種まきは4月に。地域の人々が協力してくれたそう
- 花を抱え、自然と笑みがこぼれる西村さん