
「必死の追いかけっこ」【こそだてDAYS】
親世代が学んだころと比べ、今の子どもたちを取り巻く教育環境が大きく変化しています。そんなギャップに戸惑う、小・中学生の子どもを持つ親たちに、滋賀の大学からメッセージをもらう特集の第2弾をお届け。今回も四つの学校に話を聞きました。
撮影/桂伸也ほか
ー 医学が日々進歩する中、教育の現場にも変化がありますか。
「再生医療やゲノム医療といった先端医療が現実になりつつある今、医学生の学ぶ範囲も広がっています。例えば分子生物学や遺伝学といった新しい専門科目が増えていますね。今年開学50周年の本学では、4月から県内初となる看護系の博士課程を開設しました。看護学も一つの学問として極め、将来の医療福祉を担うリーダーの育成に努めています。医学科・看護学科とも実習の時間数が多く、チーム医療の一員として加わる〝診療参加型臨床実習〟を行っているのも特色です」
ー これから医療人を目指す子どもたちはどのような力を育んでいくとよいでしょう。
「どんな仕事に就くとしても、大切なのは他者を尊重する気持ちです。本学では〝全人的医療〟を理念に掲げていますが、患者さんの悩みを理解し共有しようとする気持ちがなければできません。そのため、解剖実習ではご家族との対面から納骨までを経験する取り組みを行い、人に対する尊敬の念を培っています。
今、小中学生の皆さんはぜひ友人と一緒に遊んだり、勉強したり、意見交換したりする経験をたくさん積んでください。仲間づくりが他者を理解する第一歩です」
ー 次世代の子どもたちを支える人材を育成する大学として、今の子どもたちについてどのようにとらえていますか。
「今の子どもたちは、親の目が行き届いた環境で育っているといえるでしょう。高度経済成長期のころと比べると、自主的に考え、夢を持ち、行動する面が弱くなったと感じています。そのため、親が描いた夢や社会の希望に乗っかろうとする傾向があります。
子どもの成長で重要なのは〝伸びしろ〟、つまり将来に対する可能性です。〝伸びしろ〟は、興味や関心から生まれます。学びの主役は子ども。大人や社会は、子どもが興味や関心を持つような〝仕掛け〟をするのが役目です。今は、30歳を超えても〝伸びしろ〟があり、時間をかけて成長し続けるケースが多いですね。これは、成熟化した現代社会の特徴でもあります」
ー 大学の特徴を教えてください。
「本学の学生は約600人。一人一人の顔が分かる規模を生かして、学生の個性に応じた学びやサポートを提供しています。卒業生は、県内を中心に近畿圏の教育機関をはじめとした幅広い分野に就職。社会に貢献する存在として、活躍の場を広げています。私たちは、そんな学生たちの成長を信じています」
ー コロナ禍を経て、バイオサイエンスの分野が注目されていますね。
「生命現象の仕組みを分子レベルで解き明かし、人に役立つように活用する科学です。本学は〝バイオの総合大学〟として、幅広い知識と技術を身につける実践的なカリキュラムを用意。研究は、動物や植物、微生物などあらゆる生物を対象に、遺伝子、タンパク質、環境、化学、コンピュータなど多岐にわたります。
生物の遺伝情報は、近年急速に解析が進み、例えばiPS細胞やmRNAワクチンも、それを基に開発されています。開発にはDNA操作が不可欠で、本学では実習で学生が、DNAを切ったりつないだりしています」
ー 理数系に強い学生に向いているのですか。
「バイオサイエンスは生物が基本。動物や植物が好きな学生が多く、もともと文系という学生も少なからずいます。理系・文系は関係なく、『好き』という気持ちが大事です。あと今の若者は、IT機器を使うことは得意ですが、日本語の経験値が低いように感じます。人は言語で物事を考えるもの。豊かな語彙(ごい)力を持つことで、思考に深みが生まれます。どんな将来を選ぶにしても、読んで、聞いて、書いて、話せる日本語能力を小学校のときから養っててほしいですね」
ー 滋賀県唯一の芸術大学には、どんな学生が集まっていますか。
「絵を描くのが好きという人が多いですね。6領域・16コースを用意していますが、特にイラストレーション領域が人気です。最近では滋賀県をフィールドとし、社会で創造的提案ができる人材を育てる地域実践領域という専攻も設けています」
ー 芸術の分野でも時代の変化を感じますか。
「デザインという言葉の概念がどんどん広がっています。以前はデザインというと図案を指しましたが、モノ・コトを計画し、さまざまな形に表現する一連の行為もデザインと呼びます。そこで本学も、プロジェクトなどを通して協働力を磨く独自のカリキュラムを展開。自ら問題を見つけ、考え、行動する教育を大切にしています。そんな創造力を持った人材を必要とする企業も増えてきました」
ー 先行きがわからない、答えのない時代だからでしょうか。
「AIの技術も進み、〝人間ができる表現とは何か〟を追究する時代。私が学生に伝えているのは、遠回りでもいいから好きなことを続けなさいということです。〝コスパやタイパ〟ではなく、一見ムダに思えることから創造力が養われるのではないでしょうか」