
空気、読みすぎていませんか?
社会の国際化や情報通信技術の進歩など、今の子どもたちを取り巻く教育環境は大きく変化し、自分たちの時代とのギャップに戸惑う親世代も多いはず。そんな小・中学生の子どもを持つ親たちに、滋賀の大学の学長からメッセージをもらいました。
撮影/桂伸也ほか
ー ICT(情報通信技術)が日々発達する現代。学びの現場ではどんな変化がありますか。
「情報収集は図書館や新聞からネット検索へ、授業は黒板からスライドへとデジタル化が進んでいます。大学の講義も対面とオンラインのハイブリッド方式がスタンダードになりつつあります。
本学では2017年にデータサイエンス学部を創設。インターネットに蓄積された膨大なデータを処理・分析することで新たな価値を生み出せる人材を育てるのが目的で、学部としての開設は当大学が日本初でした」
ー 子どもたちは、デジタル技術とどう向き合えば良いでしょう。
「今後は、デジタル技術をツールとして使いこなすことが有利に。さらに、数学の知識に加えて経済・経営といった文系の要素も必要です。多様化する社会において文理のバランスの取れた人が求められるようになると思いますよ。
同時にじっくりと文字を追い、深く考えることも大切です。時間をかけて物事に取り組むことで〝創造力〟が養われます。この力は情報を与えられ過ぎては育ちません。子どもたちにとって正解のないことをゆっくり考える訓練は大切。親はそういった子どもの自分で伸びようとする力を信じ見守ってあげてください」
ー 環境に関わる学部があるのが、自然豊かな滋賀ならではですね。
「本学ではこの地の利を生かし、人文科学、社会科学、自然科学と幅広い分野から学ぶことができます。中でも環境科学部は日本で初めて〝環境〟という言葉を冠した学部で、開学当初からさまざまな環境課題に取り組んできました。環境を考えることが当たり前になった現代で、ここで得た知識や経験は、将来地元でも役に立つと思います。
しかし、本学に限らず滋賀の大学生の進路はなぜか県外志向が強い。県内就職率が約30%という調査結果もあり、私たちは10年、20年先に向けて大学のあり方を考えていかなければなりません。同時に、学生にはもっと滋賀の良さに目を向け、地元で働きたいと思ってもらいたいですね」
ー 子どもの育ちで大事なことは何ですか。
「それは、経験値を高めることではないでしょうか。外国に行く、変わった習い事をする、というものではなく、子ども同士で仲良く遊ぶとか、自然の中で虫とりや水遊びをするとか、ひと昔前では当たり前だったことです。祖父母など年代の違う人としゃべるのもいいですね。仕事でいろいろな人と関わったり、チームとして何かを成し遂げるとき、その経験は大きな力となるはずです」
ー 野球の世界大会「WBC」などスポーツが注目される中、大学としてスポーツへの関わり方に変化はありますか。
「今、スポーツITと同じくらい将来を有力視される産業です。これからは、スポーツ選手や業界全体を〝支える〟ビジネスがますます重要視されていくでしょう。
そのために、本学では2024年から『コーチング』『マネジメント』『健康・医科学』を柱にカリキュラムを改編。専門知識を身に付け、多方面からスポーツを支えることができる人材の育成を目指します。
スポーツ大学は、運動神経のいい人が入るものと思われがちですが、それだけではありません。将来、さまざまな場面で活躍できる分野についても学べる場所であることを、広く知ってもらいたいですね」
ー 今後はどんなスキルが必要と思われますか。
「誰とでもコミュニケーションがとれる力は、スポーツ界にかかわらず多様化が進むビジネスの現場で求められる素養だと思います。
これからは、やりたいことができる環境を自らが選ぶ時代。スポーツでも趣味でも、子どもが好きなことは思いっきりやらせた方がいい。そうすることで、困難にぶつかったとしても負けない胆力が養われますよ」
ー リハビリテーションを学ぶ専門職大学。どんな学生がこちらを選んでいますか。
「『部活でけがをしたときリハビリ指導の先生が頼もしかった』『障がいがある身内がいる』など、日常の中で心を動かされたことがきっかけになった学生が多いようです。
専門職大学は、一般的な大学で学ぶ知識や理論、専門学校で習得する実践的なスキルの両方を身に付けられる〝新しい大学のカタチ〟として注目されています。
本学ではスポーツや医療・福祉の分野で活躍する理学療法士、高齢者や子ども、障がい者などに寄り添い支援を行う作業療法士と、今の社会に必要な健康や命に向き合い地域を支える〝リハビリのスペシャリスト〟を育成、2024年からは言語聴覚士を養成する学科を開設予定です。人の役に立つことが好きな人は挑戦してほしいですね」
ー 小・中学生の子どもを持つ親世代にメッセージをお願いします。
「今の学生は素直でおとなしい気がします。興味や関心のあることは、同級生と意見を戦わせるような気概があるといいですね。また『子どものスケジュールを埋めないと不安』という親の声も聞かれますが、興味のあることにとことん向かい合う時間や機会は大切にしてあげてください」